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 物心ついた頃から親父はヤバイ仕事をしていて、俺はそんな親父の背中を見て育ってきた。人体の急所や致命傷を負わせられる箇所を知っているのはそんな親父の背中を見てきたからかもしれない。
 母はごく普通のやさしい母だった。時折見せる不安そうな表情が子供心に不思議で、母の不安な表情の原因を知ったのはそれからまもなくのことだった。

「…オ、リオ!起きて」
「…お母さん?」
五、六歳の幼い俺をたたき起こした母の表情はいつものそれより険しかった。何かに怯え逃げ出さんばかりの顔をこしらえていた母は俺を無理やりベッドから引っ張り出すと、荷造りされたトランクを俺に持たせた。
「朝早くからどこにいくの?」
「今日は空港までお出かけするの…急いでるから早くお着替えなさい」
いつもの母にない早口から緊急の様子を悟った俺は、すでに椅子の上に置かれた着替えをとり急いで寝巻きから着替えをすませ、母の手をとるとまだ日の上がらない外へと駆け出した。

 早すぎる朝に鳥のさえずりさえ聞こえず、その光景は子供の心に適度な恐怖を与えてくれた。父のしていることを薄々知っていた俺は、その静けさが俺たち家族に向けられていることに気付いていた。


 そしてその静寂はあっけなく破られた。


 「あなた!!」
乾いた銃声と共に響いたのは、母の悲鳴だった。
刹那眼前をかすめたのは赤い父の血とその血に染まった父の姿、そして建物の影から現れてくる黒ずくめの人間。俺はそいつらが組織「reray(リレイ)」の暗殺者達だと本能で悟っていた。
「ライヒェ=ミズイ、組織脱走の為抹殺。任務A656完了、引き続き任務A657と658に移る」
「了解。リオ=ミズイの捕獲とアキ=ミズイの射殺任務に移れ」
即死した父は空港への最後の曲がり角でその生涯を終えた。
残された母と俺は音もなく近付いてくる影につかまらないようにと必死に空港へと走った。しかしそれも虚しい抵抗に終わり、背後から心臓めがけて散弾銃の弾をうけた母は俺の手を握ったまま道に倒れこみ、息をひきとった。最期に俺を空港の中へ入れようと必死にドアの方へ手を伸ばしたまま。

 残された俺は両親の死に戸惑い、追って来る影とうつ伏せに横たわる母とを交互に見やったまま空港の入口の前で呆然と立っていた。やがて追いついた影が俺の手をつかみ何か会話を交わしていた時も、俺は目の前で起きた出来事が理解できずただただ父と母の名を呼び続けた。



「任務完了、これよりリオ=ミズイを連れて帰還する」



 俺はその言葉を忘れないと心に誓った。
 そしてここから必ず抜け出してみせると父と母に誓った。




 あの日から俺の瞳は光を失い、光を拒絶する瞳となった。
 ドイツで両親を失ってこの日本に連れてこられてから十三年、自分と同じ光を拒む瞳をずっと捜してきた。

 今日の標的は狩宮 祐二。今は暗い森の中に身を隠しているらしい。
 今日もきっと、探し続けている瞳に遭う事はできないかもしれない。何せこんな平和ボケした日本だ、もしかしたらそんな奴なんていないかもしれない。

 そう思っていたら、さっきから追いかけていた標的を誰かに殺された。でかい刃物でめった刺しにされた狩宮は見る影もない。しまった…同業者に先を越されたか?

 と思ったらそうじゃなかった。私服であろう服を纏った男はめった刺しにした死体を見て笑っている。組織によって服装は違うが、あれはあきらかに組織に属す人間じゃない。死体をみて笑う奴の分類は……。そう、快楽殺人者だ。
 それに間違いない、あの瞳。あの光を拒絶した闇の瞳。あれはまさしく俺が探し続けてきた人間だ。

 むこうがこっちの動きに気付いたのか、警戒を帯びた声が届いた。


「…誰だ」




 止まっていた歯車が廻り始める。