ナレーター「文化祭2日目。」人ごみCI。皓、クラスの方から会議室へ戻ってくる。 |
|
雅 | お疲れさま〜。今日のお化け屋敷は午後からだよ。 |
---|---|
凛 | 随分疲れたまってるみたいだねぇ。 |
皓 | そりゃあ疲れますよ…。昨日とはうって変わって妨害が激しいんですから。 |
凛 | そっちもか…。うちのクラスの方も荒らされたりして、大分やられてるよ。展示品が特にひどいね…。 |
龍亮 | 皓の方は喫茶店だから余計にひどいんじゃないか? |
皓 | 酷いなんてもんじゃないですよ。客のふりして来てテーブルクロスを引っぺがして物を落としたり、わざとこぼしておいて自分はさっさと帰ったり、ゴキブリの形した玩具をほうってきたり…。 |
雅 | すごい壮絶ですね…僕のクラスは今のところ妨害はきてないみたいですけど…。 |
龍亮 | 午前中は皓や凛の方に集中して、午後は残りの結城と俺の方に行こうってつもりなんだろ。雅が仕掛けてきてくれた罠の成功率が今ひとつなんだよなあ…。 |
雅 | 一応お客さんが引っかからないよう裏方の方に仕掛けてきたんだけどなぁ。誰かが間違えて罠をとっちゃったのかも。 |
凛 | 変な所に仕掛けてきたんじゃないのか? |
雅 | そんなことないですよ。仕掛け上手の僕がやってきたんだから! |
ドアが開き、雅の仕掛けた罠を持った嶂が入ってくる。 |
|
雅 | あ、それ…。 |
皓 | 明らかに雅さんの仕掛けた罠ですね。 |
嶂 | 連探しに裏方行ってみたら、見事にかかってもたわ。これ白の仕掛けた罠やろ? |
龍亮 | 大当たり。 |
凛 | 雅、お前さんやっぱり変なところに仕掛けてきたんじゃないかい? |
凛、苦笑。 |
|
雅 | そ、そんなことないですよ!黒会長のところは劇だから、裏方の控え室と中に3ヶ所、舞台に6ヶ所…。 |
皓 | で、今報道部長さんが持ってるのがそのうちの4つ。これまでの雅さんの罠成功率を考えると…。 |
龍亮 | 単に嶂が間抜けなだけじゃないのか? |
龍亮、笑いをこらえきれず声を上げて笑う。 |
|
嶂 | そら確かに足元よう見んかったけど、そこまでハッキリ言わんでもええやんか龍亮ー。ま、とりあえず罠持ってきただけやから。また罠仕掛け頑張りやー。 |
雅 | この罠仕掛けるの大変だったのにー。うー…またこれ仕掛けてきます! |
雅、会議室を出る。 |
|
皓 | 仕掛け役の雅さんも大変ですね。 |
龍亮 | そう言ってるお前も、自分のクラス見てこなくていいのか?妨害自体すごいようだけど出し物として結構評判みたいだし、今ごろお前がいなくて皆てんてこ舞いになってるんじゃ…。 |
皓 | あっ!すっかり忘れてました! |
皓、慌てて会議室を出る。 |
|
凛 | たいへんだねぇ。 |
龍亮 | 自分とこはどうなんだ?凛。 |
凛 | あたしのクラスは問題ないよ。なんせ図体のでかい柔道部員がいるんだからねぇ。あれならゴキブリ一匹たりとも入れないよ。 |
龍亮 | へぇ、そりゃまた頼もしい。ぜひ白虎会に用心棒として入れたいもんだ。 |
凛 | 用心棒には向かないよ。実力がある分天狗になってるからね。 |
龍亮 | それは残念。 |
凛 | 龍んとこはどうなんだい? |
龍亮 | 生徒会として用意する防御は雅任せだが…まあ、クラスがほぼ全員白派だし、俺がいなくとも問題ないさ。 |
凛 | そういやそうだったね。白の根城みたいなもんか。 |
龍亮 | 根城ってなんだよ根城って…。 |
凛 | あたしなりに的確な表現をしたまでだよ? |
会話の途中でFO。人ごみの音アップ。 |
|
有栖 | ふう…こっちの罠は完了っと。優、こっちは終わったよー。 |
優 | オッケー、ちょっと待って…よし、こっちも終わったー。 |
有栖 | よし、この辺一帯は完了かな。えーと次は…白書記のクラスだね。 |
優 | やたら罠仕掛けるのが上手いあの白書記か…。なんとなく嫌な予感がするのは僕の気のせいかな、有栖? |
有栖 | 気のせいだよ、うん。 |
優・有栖、瑳羅の教室を通り過ぎる。 |
|
有栖 | そういえばここ瑳羅さんの教室か…。ねえ優、瑳羅さんのことどう思う? |
優 | えっ、そそそそんな別になにも思いませんよ!?綺麗な人だなーって思うけど! |
優、おかしいを通り越して挙動不審。しかしそれに気付かない有栖。 |
|
有栖 | あ、確かに瑳羅さんの縦ロール綺麗だよねー。触ってみたいんだけど瑳羅さん気高い人だし、やっぱ無理だよねー。 |
優 | そ、そうだね……。…ん?有栖、あれ見て。 |
有栖 | 何?…あ、あれはまさか白の書記! |
優 | 有栖のクラスに罠仕掛けてる。有栖、妨害阻止作戦発動! |
有栖 | ラジャー!よし、突っ込めー! |
有栖・優、雅に走りよろうとするが入口前に仕掛けられていた罠に引っかかり、派手に転倒する。 |
|
優 | あたたた…。大丈夫、有栖? |
有栖 | な…なんとか生きてるよ…。 |
有栖、目の前にある影に気付き顔を上げる。つられて見上げる優。仁王立ちした雅が二人を見下ろしている。 |
|
雅 | 黒の二人、捕獲成功! |
優 | しまったあああ!!白の罠にはまるなんて僕のしたことが! |
有栖 | 優の言ってた嫌な予感があたった…いつも当たらないのに! |
優 | さりげなく責任転嫁してない?有栖。 |
雅 | 僕のクラスに罠を仕掛けようとしたのが運のつき、自衛用にあらかじめ作っておいたんだよー。あれだけ分かりやすいところにしかけてあったのに気付かないなんて、黒もまだまだだね! |
有栖 | くやしいなぁ、もう! |
優 | さすがは罠仕掛けが上手いと評判の白書記…でも僕ら「黒龍会コンビ」だって負けてませんよ。 |
有栖 | 僕らって…いつからコンビ組んでたの、優? |
優 | え、会長がこないだ勝手につけてました。僕はいいかなーって思うけど…。ダメ? |
有栖 | とことん当人の意見そっちのけの会長だなぁ…ま、いっか。 |
雅 | (そんなんでいいんだ……二人とも) |
優の携帯が鳴る。 |
|
優 | あ、噂をすれば会長からメールだ。なになに…一旦会議室に戻って来いってさ。 |
有栖 | 何だろうね?とりあえず罠も一通り終わってるし、戻ろうか。 |
雅 | あ、敵前逃亡なんて男らしくないぞ! |
二人をおさえようと走りよる雅。しかし自分の仕掛けた罠にひっかかり、派手に転ぶ。 |
雅 | いったたたた…。 |
優 | 白も人のことはいえないですね〜。 |
有栖 | 自滅ってところだね。行こ、優。 |
立ち去る有栖、優。 |
|
雅 | ううー…くやしー!次にきたら絶対同じ目にあわせてやる!! |
廊下に出て会議室に向かう二人。ふと有栖が何かを思い出す。 |
|
有栖 | そうだ。ねぇ優、会議室行く前にちょっと寄りたいクラスがあるんだけどいいかな? |
優 | うん、別に構わないよ。どこのクラス? |
有栖 | 黒の人間としてちょっと不謹慎だけど、白副会長のクラスって喫茶店やってるでしょ?あそこのクッキーがおいしいって昨日瑳羅さんがいってたんだ。 |
優 | え、さ、瑳羅さんが!? |
優、瑳羅の名前を聞いて赤くなる。しかし全く気付かない有栖。 |
|
有栖 | うん、瑳羅さんにしては珍しいって思ってさ。行ってみない? |
優 | うん、行こう行こう!瑳羅さんがそういうんだから、絶対おいしいに決まってるよ! |
ナレーター「そのころ会議室では…」 |
|
連 | …おっせぇなあー、あの二人…。どっかで道草くってんのか? |
場所切り替わり、廊下。自分のクラスへ向かう皓。 |
|
皓 | 多分紅茶の入れ方分からなくて皆ティーバッグ使ってるかもしれないなあ…。クッキーは事前に生地を作っておいたから大丈夫だと思うけど焼き加減で間違えてないか心配だし、黒の妨害もあるし…。ああー、早く戻らなきゃ! |
皓、向こう側から優雅に歩いてくる瑳羅に気付かずぶつかる。 |
|
瑳羅 | きゃあっ! |
皓 | うわっ! |
ぶつかった拍子に皓のコンタクトが取れる。 |
|
皓 | (しまった…コンタクトが!) |
瑳羅 | いたたた…。なんですの!?いきなりぶつかっ… |
瑳羅、皓の目の色が赤いのに気付く。皓、目を瞑る。過去の記憶が一瞬よぎり(ノイズ音CI・CO)、無意識に言葉を発する瑳羅。 |
|
瑳羅 | コウちゃん…? |
皓 | え…? |
過去の記憶がよぎり(ノイズ音CI・CO)、目を開ける皓。 |
|
瑳羅 | その目…。コウちゃんなの? |
皓 | …さー…ちゃん? |
瑳羅、皓の目をまじまじと見つめ確信したように手をたたく。 |
|
瑳羅 | やっぱりコウちゃんですわ!その呼び方をするのはコウちゃんだけでしたもの。 |
皓 | 本当にさーちゃんなんだ…。まさかこの学校に入ってるなんて思いませんでした。 |
瑳羅 | 私もですわ。 |
生徒A | 月瀬くーん…あ、いたいた!注文沢山きてて皆大変なの。早く早く! |
皓 | あ…(まずい、今こられたら…) |
瑳羅、生徒Aと皓の間に立つ。 |
|
瑳羅 | 彼は今調子が悪い様ですの。少ししたらそちらへ向かいますわ。 |
生徒A | え?あ、うん分かった。月瀬君、早めに戻ってきてね。 |
皓 | あ…はい、すぐ行きますから。 |
生徒A、立ち去る。 |
|
瑳羅 | 見られては困るのでしょう?そのウサギみたいに可愛らしい目。 |
皓 | …ええ。ずっと…隠してきましたから…。 |
途切れ途切れにノイズ音FI、人ごみの音FO。ノイズ音に雑じって子供の笑い声が聞こえる。 |
|
皓(幼少期) | 次はさーちゃんの鬼だよー。 |
瑳羅(幼少期) | 絶対つかまえてみせますわよ! |
走り出す皓・瑳羅。途中で石に躓いて転び、コンタクトが外れてしまう。 |
|
皓 | いたっ…! |
瑳羅 | あ!コウちゃんだいじょう… |
瑳羅、赤い目を見て差し伸べる手をとめる。 |
|
皓 | (…見られた…!) |
瑳羅 | ひっ…!? |
刹那、皓の脳裏に皓の兄の声が響く。 |
|
皓の兄 | 化け物!お前のせいで母さんは死んだんだ! |
皓、目を瞑り全速力でその場を走り去る。 |
瑳羅 | あかい…おめめ…? |
幼い声FO、FI。 |
|
皓 | (…さーちゃん、びっくりした顔してた。きっとまた、化け物って言われるんだ…) |
足音が皓の前で止まり、顔を上げる皓。 |
|
瑳羅 | やっと来ましたのね、コウちゃん。 |
皓 | さー…ちゃん。 |
瑳羅 | 言っておきますけど、私あなたの目の事なんかちっとも恐くありませんわよ。 |
皓 | で…でも…。 |
瑳羅 | 私はその目、割と好きですわよ。ウサギさんのおめめみたいでかわいらしいじゃありませんの。 |
皓、驚く。 |
|
皓 | あ…りが、とう…。 |
瑳羅 | べ、別にお礼を言われるほどのことじゃありませんことよ。私はただ、思ったことを言いたかっただけですわ。 |
子供の笑い声、FO。重ねて人ごみの音FI。 |
|
皓(現在) | まさか黒の書記がさーちゃんだったとは思いませんでしたよ。 |
瑳羅(現在) | 私も、コウちゃんが白の副会長だとは思いませんでしたわ。 |
皓 | 正直複雑です…。対立してたなんて気付きもせずにここで再会するなんて…。 |
瑳羅 | あら、対立していても学校外では幼馴染みなんですもの。何も変わりありませんことよ。 |
皓 | …そうですね。 |
優 | 瑳羅さーん、会長が呼ん… |
優が瑳羅を探しにやってくる。慌ててコンタクトを拾う皓、調子が狂った様子で別れを告げる瑳羅。 |
|
皓 | そ、それじゃまた。 |
瑳羅 | ごきげんよう。…で、なんですの? |
優 | 会長が瑳羅さんを呼んでますけど…。 |
瑳羅 | そう。でも生憎、私今それどころじゃございませんの、後でそちらへ参りますと伝えてくださる? |
優 | はぁ…。わかりました。 |
人ごみの音、小さくなる(FOではない)。黒の会議室で休憩をとっている有栖と連、そしてなぜか会議室にきている嶂。 |
|
有栖 | 優、遅いなぁー。 |
連 | その優と道草食ってきたお前が言うか…。またどっかで道草食ってんのか? |
有栖 | かもしんないですね。さっき行ってみたい店があるって言ってたし。 |
連 | あいつは自分のしたい事を後回しにできない奴だからなぁー。ちゃんと探してるかどうか不安だな…。 |
嶂 | いつも見てて察するに、綾瀬は秣本っちゃんに惚れてるみたいやけど。目的地が秣本っちゃんなら大丈夫ちゃうか? |
連 | さすが人間観察が趣味の報道部長…。ま、あいつが瑳羅に惚れてるのは大体素振りで分かってたけどな。 |
有栖 | えっ、そうだったんですか!?僕全然知らなかったですよ!? |
連 | 鈍感ー。 |
ドアが開き、優が戻ってくる。 |
|
有栖 | あ、おかえりー。 |
連 | 遅えぞ、優。 |
嶂 | あれ、肝心の秣本っちゃんがおらんで? |
連 | 優、瑳羅はどうした? |
優 | …あ、今取り込み中みたいで後で来るって…。 |
有栖 | (会長、なんか優の様子おかしくないですか?) |
連 | (そうか?別にいつもと同じに見えるけど) |
有栖 | (きっと瑳羅さんと何かあったんですよ) |
連 | (でもあいつ、いつもボーっとしててあんな調子だろ?) |
有栖 | (そうですかねぇ?) |
優 | 何ひそひそ会話してるんですか、二人して。 |
連・有栖 | いや、べつにぃー… |
嶂 | そんで連、秣本っちゃんおらんと困るんとちゃうか? |
連 | あ、そうだよ!優、瑳羅はどうした? |
優 | それが、何か様子が変だったんですよ。白の副会長と親しげに会話してて…。 |
一同 | へっ!? |
優 | 声かけたら今それどころじゃないって言われて…。もしかしてあの二人なんかあるんじゃないですか? |
連 | …あやしいな…。 |
有栖 | めちゃくちゃあやしいですね…。 |
優 | 白と黒で仲良しの人なんているはずないし、会長、ここはやっぱり…。 |
連 | だな。嶂、出番だぜ! |
嶂 | オーライ!ばっちり身辺洗ってきたるで! |
場面変わり、白の会議室。お茶をすする音。 |
|
雅 | 会長、皓先輩の様子が変だけど…どうしたんですかね? |
龍亮 | 知るか。 |
雅 | …会長、何か不機嫌そうですね。 |
凛 | 龍は皓の淹れてくれるお茶が好きだからねえ。ここにいるのにお茶の一つも出ないから機嫌損ねてるんだよ。 |
雅 | あー、そういうことですか。会長も可愛いところあるんですね! |
龍亮 | 凛、余計な口出しするなよ。 |
凛 | 事実を言ったまでだよ。…それで、皓はどうしたんだい?クラスの人に連れられてこっち戻ってきたじゃないか。 |
雅 | いつも会長一筋の副会長があんなにボーっとしてるの初めてみました。…やっぱ二重人格のことが堪えたんじゃないですか? |
凛 | ああ、それはない。逆に晴鵺が出てこないようまめに会長かまってるし、心持愛情が増えたようにも見えるからね。 |
龍亮 | 俺としてはどうでもいい事なんだがな。でもここまで皓の様子が変となるとちょっと調子狂うよな…。 |
凛 | ま、多分クラスと妨害対策で疲れてるんだろ。少し休めば元に戻るだろ。 |
皓、おもむろに立ち上がる。 |
|
皓 | …クラスの方、行ってきます。 |
龍亮 | え…大丈夫なのか? |
皓 | まだ忙しいですし…。僕がいないと、まとまらないので。 |
凛 | …それならあたしは止めないよ。行っといで。 |
皓 | いってきます…。 |
皓の喫茶店。皓が戻ってきて生徒ら「おかえり」「早くこっち手伝ってー」など言う。注文を取りに客席へ向かう皓。そこに見覚えのある姿(優)を見る。皓はやや警戒気味で注文をとる。 |
|
皓 | ご注文は? |
優 | このナッツクッキーと紅茶お願いします。 |
皓 | かしこまりました。ナッツクッキーと紅茶一つお願いしまーす。 |
生徒A | はーい。 |
紅茶をいれようと裏に戻ろうとする皓を止めない優。しばらくして紅茶とクッキーを持ってきて優の前に置く皓。 |
|
皓 | お待たせしました、ナッツクッキーと紅茶でございます。 |
優 | …さっきの、なんだったんですか? |
皓 | さっき? |
優 | 瑳羅さんはあなたの事をかばっているようにみえました。白の副会長であるあなたをです。 |
皓 | あ、あれは…。 |
優 | あなたの事を昔から知っているみたいな様子も伺えました。僕としては気に入らないんです。それが白の連中とくるから尚更に。 |
皓 | さ…黒の書記は…。 |
言いかけたところで「いらっしゃいませ」という声が聞こえ、瑳羅が店にやってくる。 |
|
優 | 瑳羅さん…。 |
瑳羅 | また遊びに来ましてよ。昨日注文したチョコクッキーとこのハーブティーいただけます? |
皓 | あ、かしこまりました。 |
皓、裏へ去る。瑳羅、優の向かい側に座る。緊張する優。 |
|
優 | あ、あの瑳羅さん…。 |
瑳羅 | 先程の件が気になるようですわね。 |
優 | …そうです。…瑳羅さんはあの時白の副会長をかばいましたね?敵をかばうなんて、どういう風の吹き回しですか? |
瑳羅 | ただの気まぐれですわ。あなたには関係のないことですわよ。 |
優 | 十分関係あります! |
大声を出した優を見る一般人。人々の声が少し静まり、恥ずかしくなって俯く優。 |
|
瑳羅 | 余計な詮索をなさってる暇があったら白の妨害をしてはいかがですの?そろそろ白のお化け屋敷が始まる時間ですわよ。 |
皓 | お待たせしました、チョコクッキーとハーブティーになります。 |
瑳羅 | よろしくてよ。(笑顔。演技かどうか判別できない) |
皓に対し笑顔の瑳羅。演技かどうか判別できない笑顔を見て嫉妬する優。 |
|
優 | …いずれ事実を見つけ出してみせますからね。 |
席を立ち、去る優。それを見送る皓と瑳羅。 |
|
皓 | 黒の会計…でしたか。あれだけ分かりやすい人も珍しいですね。さーちゃんに惚れてるようにしか見えませんよ。 |
瑳羅 | 普段の態度を見れば一目瞭然ですわ。 |
会議室に戻る優。 |
|
有栖 | あ、おかえりー。 |
連 | 優、わかったぞ!瑳羅と白副会長の関係! |
優 | え? |
有栖 | あの二人、幼稚園の頃幼馴染みだったみたい。二人の様子知ってる人が偶然学校にいたみたいで、報道部長がさっき報告してくれたんだ。 |
連 | でも嶂にも一つだけまだ分からない部分があるらしいんだ。それをまた調べにいっちまったけど。 |
優 | 幼馴染み…。 |
連 | まぁそう落ち込むな、なんとかすっから。 |
優 | べ、別にそんな…。 |
有栖 | (優、瑳羅さんに惚れてる事はとうの昔にばれてるよ…) |
ナレーター「一方…」 |
|
生徒A | 月瀬君の事?そういえばあんまり知らないですね…。頭いいしかっこいいからよくもてるくらいしか。 |
嶂 | そか、サンキュー。(これで11人目…未だ手掛りになりそうな情報はなし…と) |
生徒A | あ、そういえばさっき月瀬君の様子ちょっと変でした。 |
嶂 | …様子が変やった? |
生徒A | はい。お店の方戻ってもらおうと探してたんですけど、秣本さんと話してて。でもなんか、ちょっと親しそうに話してました。 |
嶂 | なんやて?それ、他になんか違うたところは!? |
生徒A | 他にー…。うーんと確か、月瀬君に声かけたら、調子悪いみたいだから後で来るって秣本さんに言われました。何かこう、まるで秣本さんが月瀬君をかばってるみたいに…。 |
嶂 | ほんまか!?…おおきに、それで十分や! |
生徒A | え?…。月瀬君、なんか今日大変だなあ…。 |
嶂、黒の会議室に駆け込む。 |
|
嶂 | 連、決定的情報手に入ったで! |
連 | 本当か!?どうだった? |
嶂 | さっき秣本っちゃんと皓が会話してたのを見た奴がおったんや。親しそうに話してたのはともかく、どうも秣本っちゃんが調子悪いから後で行かせる言うて皓をかばったらしいんや。 |
連 | かばった?あのギリギリお嬢が? |
優 | でもさっき僕が店に行った時、白の副会長は別に調子悪そうな様子微塵もなかったですよ。 |
嶂 | ますます怪しさ倍増やな。 |
連 | またやるのは気が進まないが…。よし、白副会長と瑳羅を捕まえろ! |
優・有栖 | ラジャ! |
嶂 | また拉致かい。好きやなあー。 |
連 | 好きでやるんじゃないって!…それに、黒の人間が絡んでるとくるから尚更やるしかないだろ。 |
優雅な音楽と人ごみの音。有栖と優、皓の店にやってくる。皓と瑳羅は会話をしていて二人に気付かない。 |
|
生徒A | いらっしゃいませー。 |
有栖 | すいません、白の副会長さんと秣本さんいますか? |
生徒A | あ、まだいますよー。ちょっと待っててください。 |
生徒A、皓と瑳羅を呼んでくる。 |
|
皓 | …黒の副会長さんと会計さんが何の御用事ですか? |
優 | 仕事中すみませんが、ちょっと一緒にきてもらいます。 |
皓 | 会長の時みたいにまた拉致、ですか。黒も懲りないですね。 |
有栖 | あれはっ…。 |
瑳羅 | 黒はそんな野暮じゃありませんことよ。 |
皓 | …晴鵺さんが絡んでいたから、と言いたいんですか? |
頷く黒の3人。皓、仕方ないと肩を落とす。 |
|
皓 | どうやら別の用事みたいですね。分かりました。 |
瑳羅 | …そうでしたわ、行く前に少しお待ちいただけます? |
瑳羅、教室に引っ込みクッキーを持ってくる。 |
|
瑳羅 | クッキーをまだ食べておりませんでしたわ。 |
皓・有栖・優 | (食い意地張ってるなあ…) |
4人、黒の会議室に来る。 |
|
優 | つれてきましたよ、会長。 |
瑳羅 | 何の御用事ですこと?今の時間は私休みの時間のはずですわよ? |
連 | 仕事の用事だったら白の副会長を連れてきたりしないことぐらい分かるはずだ。なんで二人を連れてきたかぐらい、お前ならわかるだろ?瑳羅。 |
瑳羅 | 知りませんわ。 |
皓 | 昨日の会長のことといい、なぜそこまで人に干渉するんですか? |
連 | 昨日のは晴鵺が絡んでたからだが、今回は黒の人間が関わってるからだ。瑳羅、白の人間をかばうとはどういう風の吹き回しだ?気まぐれで色々やってきたのは承知だが、どれも結果として白の妨害になった。今回はどう考えても気まぐれとは考えられない。どういうつもりだ? |
瑳羅 | だからと言って私が理由を言うとお思いになって? |
連 | だろうな。じゃあ白の副会長に聞くが、瑳羅にかばってもらったらしいな。調子が悪かったわけでもないのに。 |
皓 | …あれ、は…。 |
皓の脳裏に掠る兄の蔑む声。 |
|
連 | 今はいつも通りに見えるが、本当は何かあるんじゃないのか?瑳羅はそれを知っている…。そうだな? |
皓 | …知りませんよ。あれは、少し眩暈がしてよろけた時にさ…黒の書記さんにぶつかっただけです。 |
連 | 嘘だな。保健室に向かった話も聞いてないし、行動が不自然だったって証言もある。 |
優 | 実態はつかめてませんが、白と黒の生徒会内で親しい仲になった場合の処罰を知らないわけではないですよね。 |
瑳羅 | 知ってますわ。でもそれは校則にはない非公式のものでございましてよ? |
優 | う…(それは知らなかったです、瑳羅さん) |
皓 | …力にもの言わせて相手を伏せようとするそのやり方は、今も昔も変わらないですね。晴鵺さんがいなくとも、黒というのは野蛮な連中ですね。 |
連 | ってめえ…! |
連、皓の胸倉をつかむ。 |
|
有栖 | 会長!やめて下さい! |
ドアにぶつかった拍子にコンタクトが取れる。 |
|
皓 | 痛っ…。 |
優 | あれ、今何か落ち…(落ちたコンタクトを見つける)これ、カラーコンタクト…? |
優・有栖・連、皓の顔を見る。 |
|
有栖 | あっ…! |
連 | …赤い、目…? |
3人の蔑む声が皓の脳裏によぎる。 |
|
皓 | …いい子ぶってた奴がこんな目をしてて気持ち悪いだろ?皆が化け物呼ばわりして逃げる様子なんざ、いつだって容易に想像できたさ。真実を見た感想はいかがですか?黒の会長さん。 |
連 | …あ…。 |
瑳羅 | 会長、もう十分じゃございませんこと?会長のそういう力任せなところは私も考えかねますわ。…こ…白の副会長さん、お呼びして失礼ですけれど会議がございますのでこの辺りでおいとましていただけます? |
瑳羅、優からコンタクトを取り皓に手渡して会議室から追い出す。皓、しばらく放心しトイレに向かう。 |
|
皓 | (黒に見られるなんて…。弱味を握られて、僕は白として…いや、僕こそ白の人間であってはいけなかったのだろうか?) |
皓、コンタクトを入れてからトイレから出てくる。 |
|
雅 | あ、副会長探したんですよ!お店にいないからどこ行っちゃったのかって心配したんですよー。 |
皓 | (ハッとして)あ、すいません。 |
雅 | 今お化け屋敷混んでるから呼んでこいって会長に言われて…。皆待ってますよ!早く早く! |
皓 | わかりました、すぐ行きますから…。 |
走っていく雅を追いかけてお化け屋敷に向かう皓。 |
|
龍亮 | 皓、遅かったな。 |
凛 | この忙しい時に店にもいないで、どこふらついてたんだい? |
皓 | ちょっと色々ありまして…。さ、仕事仕事。 |
凛 | (絶対なにかあったな、あれは。雅、見つけた時何か変わった様子じゃなかったかい?) |
雅 | (出ていった時と変わらなかったですよ。ぼーっとしてて…。) |
ナレーター「一方黒は…」 |
|
連 | さて…。どういうことか説明してもらおうか。 |
瑳羅 | …私が説明しなくても、報道部長さんにあれこれ調べていただいてるんじゃございませんこと? |
連 | うっ…。ま、まあ確かに聞いたけど。 |
有栖 | 報道部長さんには、瑳羅さんと白の副会長が幼馴染だってことまでは聞いてます。 |
瑳羅 | 人様の事情に首を突っ込むところだけは抜け目ないですわね。 |
連 | 会長たるもの、役員の事情を把握するのは朝飯前だ。 |
優 | (考えてみるとプライバシー侵害もいいところです会長…) |
瑳羅 | 個人の都合まで及ぶとストーカーもいいところですわよ。 |
連 | ストーカ…!? |
優・有栖 | (激しく同意です瑳羅さん!!) |
連、ショックを受ける。だがめげない。 |
|
連 | ス…ストーカーはともかく!話をはぐらかすな瑳羅。幼馴染と親しくしたい気持ちは分かるが、白と黒で馴れ合うのはここじゃ言語道断だ。 |
有栖 | そうですね…。理由如何によってはそれなりの処罰を受けてもらうことになります。 |
瑳羅 | 結構ですわ。私も偶然とはいえ校内で白と親しくしてしまったのは結果的によろしくなかったですわね。 |
連 | じゃあ処罰を考え…。 |
瑳羅 | で・す・が。無条件に大人しく罰を受けるのは嫌ですわよ。 |
優 | え。 |
連 | 何だって? |
有栖 | 処罰を軽くすることはできませんよ? |
瑳羅 | あら、誰が罰を軽くしてほしいと仰いまして?お話はまだ終わってませんわよ。 |
連 | 一応条件は聞くけどよ…ものによってはのめないぞ。 |
瑳羅、やや緊張した面持ちで髪をかきあげる。 |
|
瑳羅 | 簡単な事ですわ。こ…白の副会長の事を妨害に利用しないでいただければ結構ですの。 |
優 | といいますと…目の、事ですよね。 |
瑳羅 | その通りですわ。…私でも、あんな豹変した態度のこーちゃんを見たことがありませんでしたわ。 |
優 | (こーちゃん…?) |
豹変した様子で自分を卑下する皓の台詞がリフレインする。 |
|
有栖 | あれは、白の副会長にとって消せないトラウマのようなものなんですね。 |
瑳羅 | 何でも利用する会長の事ですわ。人のトラウマさえ妨害に利用しかねませんもの。 |
連 | え、俺すか。 |
有栖・優 | (あ、この人なら間違いなくやりそうだ) |
連 | なんか言ったかそこの二人。 |
有栖・優 | いえ何も! |
瑳羅 | それで会長様はこの条件をのんで下さいますの? |
連 | のむも何も、お前の場合のむ他に選択肢がないだろ。断ったら断ったで処罰できない範囲で嫌がらせしてくるんだから。 |
瑳羅 | 物わかりがよろしいですわね。 |
優 | (さすが瑳羅さん、会長を完全に尻に敷いてますね) |
有栖 | (ある意味黒の真の会長って瑳羅さんのような気がする…) |
体育館集合の放送音。歓声と共に人ごみの音と花火が打ちあがる。 |
|
龍亮 | …やっと終わったな。 |
雅 | 長かったね、この二日間。 |
凛 | 後は人気投票の集計を待つだけか。 |
皓 | 会長は今年で最後ですし、無事黒に勝てるといいんですが…。 |
龍亮 | 皓、ちょっと話がある。 |
皓 | え? |
錆びかけたドアを閉める音。 |
|
龍亮 | 単刀直入に聞くぞ。昼間、何があった? |
皓 | いえ、何もないですよ。 |
龍亮 | そんなはずないだろ。さっきから見てれば右目を気にしてばっかりじゃないか。 |
皓 | あ…。実は、その…黒の連中に、目を見られました。 |
龍亮 | お前らしくもない…。あれほど普段から注意していたのにか? |
皓 | 迂闊でした…。忙しさにかまけて失念していました。でもその時に分かった事がありまして。 |
龍亮 | 分かった事? |
皓 | 黒の書記、彼女は昔の幼馴染みだったんです。黒の連中に見つかった時、彼女がいたおかげでどうにか踏ん張れました。 |
龍亮 | そうか…。不幸中の幸いってやつか。 |
皓 | 見つかってから何も妨害が無かったということは、多分さー…黒の書記が何かしらの方法で黒会長を止めたからだと思います。白の弱点を見つけて、黒の会長がそれを放っておくはずが無いのは会長もご存知でしょう? |
龍亮 | そうだな。 |
皓 | 今日は黒の人間に助けられましたね。 |
ドアを開け、雅が顔を出す。 |
|
雅 | 会長、副会長!何こそこそ話してるの?下で花火配ってるから僕らもやりにいこうよ。 |
凛 | 早くしないと花火なくなっちまうよ。 |
皓 | そうですね。会長、いきましょう! |
龍亮 | よし、思いっきり遊ぶか! |
人ごみが大きくなり、手持ちの花火の音が辺りに散る。 |
|
有栖 | ふぃー、今日も疲れたね。 |
優 | だね。あちこち走り回ってさ、もしかして僕達全棟まわったんじゃないかな? |
有栖 | あ、そうかも。足パンパンだもん。会長人使い荒いんだからもー。 |
雅 | あ、黒の奴ら発見! |
優 | む。そこで指差すな! |
凛 | 黒の連中見ると雅は反射でやっちまうんだよな。 |
有栖 | その癖はなんとかするべきだと思うな。人に指指しちゃいけないんですよ! |
雅 | 黒がいなくなればなくなるよーだ! |
凛 | 揚げ足取る黒もどうにかするべきじゃないかい?そんなんじゃいつまでも人の上には立てないよ。 |
有栖・優・凛・雅、口喧嘩を始める。 |
|
連 | 今日も妨害ありがとさん。 |
龍亮 | こちらこそありがとさん。…最後までよくまあやってくれたな。 |
連 | 緻密な妨害作戦の結果ってやつだよ。…そっちの副会長には悪いことしたと思ってちょっとは反省してやったけど。 |
龍亮 | 黒にも反省する頭があるんだな。 |
連 | お前に言われたかないわ! |
嶂 | お、白黒の会長が揃いに揃ってどしたん?仲良く花火かー? |
龍亮・連 | 誰がこいつと仲良くするか! |
嶂 | ははははは!最後の最後まで元気やなー。 |
龍亮 | またはもるとか…。 |
連 | なんだこのデジャヴ…。 |
嶂 | まあ冗談はそんくらいにしといて。今年は龍亮押され気味やったなあ。どうよ感触は? |
連 | へえ、嶂がそういうってことは今年は黒の大勝利で決まりだな! |
龍亮 | まだ結果は出てないだろ。それに偉そうな事言う割に自分のクラスの妨害対策は緻密に練られてなかったようだな。結城の罠の成功率八割超えてたぞ。 |
連 | うっ…。 |
嶂 | お、あの罠やっぱり強かったんやな。てことはこれでおあいこになって結果はまだまだ分からんなあ。 |
龍亮 | 二冠達成はさせないからな! |
連 | へん、ぜってー勝ってやる! |
嶂 | 二人とも自信満々やなー。…そろそろアンケート募集も終わる頃やし、集計してくるなー。 |